収集家の技術 〜神の手が蓄音機を蘇生〜

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アンティークと言ってもいろいろなジャンルがある。男性の小道具でも、カメラ、ライター、時計、楽器、蓄音機などと、細分化すれば切りがない。

これらに魅了され、収集に血道を上げるマニアたちは、自分のテーマに関する豊富な知識と情報(ほとんどが現実生活と無縁な)の持ち主である。そして緩みを締め、さびを落とし、油を差し、磨き、仮死状態であった古物を蘇生(そせい)させることに異様な情熱と高度な技術も併せ持つ。

Aさんはグラムフォン(蓄音機)マニア。収集するブランドは「HMV」(ビクター)で、心臓部のサウンドボックスは何とかいう形式に限定という凝りようだ。

今どき日本ではお目にかかれないぜんまい仕掛けの蓄音機も、英国の市場では結構目にする。七、八十年前に製作されている上に船便四十日で日本に着いた蓄音機は、ゼンマイの回転数が定まらなかったり、高低音が割れたりと、相当よれよれになっているのだが、Aさんの手にかかると不思議やよみがえるのである。

miryoku_05 ぜんまいのグリースを入れ替え、ほんの一滴のオイルをサウンドボックスに注入し、手回しのハンドルを優しく回転させ、レコード板を傷めない竹針を音溝に乗せると、何十年もの間、雲母板に閉じ込められていた音が息を吹き返すのである。神業としか言いようがない。
そしてAさんは十インチ盤のレコードで三分半の至福の時を得ることになる。

手回し蓄音機には、今どきのCD、MDにはないやわらかな鮮明さと張りがあり、かつ、手動であるがために聴く姿勢がおのずと正されるのだという。この音こそが、Aさんにとっては音の原点だとも言う。

アンティークには、人それぞれの原風景を招き寄せる不思議な力があるらしい。