始まりはコーヒーだった 〜独自の憩いの世界〜

学生のころ研修旅行で、連日のイタリア料理を体が受け付けなくなってダウン寸前に陥ったとき、一杯のコーヒーに救われたことがある。

それまで格別コーヒー好きだったわけでもないのだが、そのとき飲んだ苦みの強いコーヒーは、よれよれの体をうそのようにしゃきっとさせてくれた。

その後もこの不思議な飲み物に魅せられ、飲み歩きながらポットやカップ、ばいせん器などコーヒーに関係する古物を買い集めていた。十六世紀のロンドンに三千軒を超えるコーヒーハウスがあったと言われるこの飲み物には、その時代の古い器物でしか出せない味があったのではないかと気になりだし、今度は古物にのめりこむはめになる。
そのうち、コーヒーにかかわる物だけでなく、テーブルやいすなどの家具、シャベルやくま手のような農具、照明器具、ちょっとした小物、それらが持っている魅力にとりつかれて抜け出せなくなった。それならばと意を決し、先代から受け継いだ家具小売業を捨ててアンティークショップを開業して以来もう何年になるだろう…。
幾度も渡欧し、いろいろな国の古家具を見てきた。それぞれの国の家具にはそれぞれの良さがあるが、やはり圧倒的なのは英国の古家具である。
伝統的な生活スタイルの中にしっかり組み込まれた家具に対する家人の愛情が、世紀を越えて古家具から伝わってくるような気がする。

以前ドイツのケルンで開かれた家具フェアを見に行ったとき、壮大なスケールの会場にはモダンを競う世界各国の家具が展示されていた。

機能的でありシャープな美しさもあるが、何か緊張感のようなものが伝わってくる。

しかし、会場の片隅に展示されていたアンティーク家具には、ホッとくつろげる憩いがあった。

Mr.K (Ksアンティーク 川口宗彦)